今年に入って,ラッスンゴレライの話題をよく耳にします。最近はオリラジや千鳥が真似したりしていて更に話題が広がってっている気がします。芸人が他の芸人のネタをパクるのは,個人的にはどうかと思っているのですが,今回は、ネタのぱくり行為を著作権法上説明していきたいと思います。
まず,どのような場合に著作物が成立して、どのようなものが著作権法上の保護対象となるのか解説していきます。
有名な作家が書いた小説が著作物として保護されるのは,当然の感覚かと思いますが,有名でもない一般の人が書いた小説や,幼稚園児が描いた絵も著作物となるのでしょうか。
著作権法では,著作物とは以下のように記されています。
ここから著作物が成立するには,以下の2つが必要となることが導かれます。
① 思想または感情の表現
② 創作性
「思想または感情の表現」というと,何やら難しそうですが,要は人が考えたことや思ったことの表現行為のことを意味します。小説や音楽は人が考え出したことですし,美しい風景を見つけて写真を撮った場合,その写真も人の考えた行為の結果となります。
逆に,株価や気温などのデータであったり,時事の報道は,著作権法で保護されません。これらは,人が考えたことというよりは,客観的な事実そのままであるので,文化的な発展を目的とする著作権法上の保護範囲とは考えられないからです。
また,著作権法上は保護するものが,アイデアではなく表現行為であるという点も重要です。著作権法と同じ知的財産法の一種である特許法は,逆にアイデアを保護するものであり,この点が異なります。
では,ラッスンゴレライはどうでしょうか。
ラッスンゴレライとは元々あった言葉ではなく,また,客観的な事実でもありません。ラッスンゴレライという言葉とあの一連のコントは,芸人の8.6秒バス-カーが考え出したでものあり,まさしく「思想又は感情の表現」といえます。
創作性とは,上で述べた思想又は感情の表現が,ありふれた表現ではないかということを意味します。
著作物となって著作権法上保護されると,その表現行為は考え出した人が独占できることとなります。このため,ありふれた表現を著作物で保護してしまうと,他人が同じように表現できなくなり表現の選択の幅が狭まりすぎるおそれがあります。
このような状態は,著作権法が目的とする,人の精神的活動の成果物を保護することにより,安心して創作活動に励める環境を作り,文化を発展させようという状態に反してしまいます。
このため,人へのインセンティブ保護と他人の表現行為の自由との調和の観点から,個別の表現行為が著作物となって著作権法上保護されるかどうか検討されるべきなのです。
例えば,サッカーのルールを解説する本は,世の中にたくさん出版されています。サッカーのルール自体は年々変更されることはありますが,本の著者が考え出すことではありません。サッカーのルール自体が保護されるとすると,第三者がサッカーのルール本を出せなくなってしまい,これが不合理な結論であることは明らかです。
本の著者は,サッカーのルールをわかりやすいように伝えようと,自ら言葉を考え出して,本も読みやすいように構成しているので,これらの表現行為が著作権法上保護されるのです。そして,他にも小学生向けのものや大人向けなど,サッカーのルール本は様々な形のものが出版されていて,これらの様々な出版物によって情報が豊富となり,文化が発展することにつながるのです。
ラッスンゴレライもありふれた表現ではなく,あの語感とリズム感はいままでにない目新しいものです。このため,創作性も当然に認められると思います。
著作権法は,著作権が成立するもの例示として下記のように定めています。そして,著作物の種類によって,権利の保護の仕方が異なるので,表現行為がどの著作物となるのか考察することも重要です。
①言語の著作物 例:論文、小説、俳句、講演など
②音楽の著作物 例:楽曲及び歌詞
③舞踊の著作物 例:バレエなどの舞踊やパントマイムの振り付けなど
④美術の著作物 例:絵画、彫刻など
⑤建築の著作物 例:芸術的な建造物
⑥地図、図形の著作物 例:学術的な図面、模型など
⑦映画の著作物
⑧写真の著作物
⑨プログラムの著作物
ラッスンゴレライは,音楽と振り付けがあるコントですので,ラッスンゴレライのコント自体は,②音楽の著作物と③舞踏の著作物に該当するものと思われます。
では,「ラッスンゴレライ」という言葉自体はどうでしょうか。これは,なかなか難しい問題かと思います。これは私見ですが,ラッスンゴレライという言葉はありふれたものではないのですが,余りに短い言葉ですので,著作権法の保護対象とはならないと考えます。どちらかというと商標権として登録して保護されるべきものと思います。
他にも,ラッスンゴレライと同じく今年ブレイクしているくまむしの「あったかいんだからぁ~」もコントや歌自体は著作権法の保護対象となります。しかし,「あったかいんだからぁ~」という言葉自体は,言い方は独特ですが,表現行為としては短く著作権法の保護対象とはならないと考えます。
今回は,ラッスンゴレライを通じて,著作権法の成立条件を説明してみました。
○著作権法上の成立条件
①思想又は感情の表現:人が考えたことや思ったことの表現行為であり,データなどの客観的事実ではないこと
②創作性:ありふれた表現ではないこと
○著作物の種類
著作権法は,著作物を例示しており(特に重要なのは言語,音楽,写真,映画),著作物の種類によって保護の方法も異なる。
以上のように,ラッスンゴレライもコント自体は,著作権法の保護されるものといえます。
これから春になって,新入生や会社の新人の一発芸として,ラッスンゴレライが多用されるでしょうね。このような身内だけの私的な場所だったら問題はないですが,他人からお金を取る場所でラッスンゴレライをやってしまうと著作権法違反となるので注意が必要です!
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