本日は、前回解説した出版契約の中でも出版権設定契約をもう少し詳しく説明していきたいと思います。
今回に限らず、本サイトの記事の中には、一見すると当たり前のことを書いている部分もありますが、出版権とは何か、どんな時に著作権侵害となるのか等のことを正しく理解するためには、当たり前のような基本的事項をしっかり押さえておくことが重要ですので、あえて省かずに説明させていただきます。皆様もどうかお付き合いください。
目次
出版権については、著作権法の中で、その要件や効果、出版社の義務が規定されています。
具体的には、著作権法80条1項に、
とされています。
出版社が著作者の著作物を出版するためには、大量に印刷して製本化する必要があります。印刷の過程では、著作物と同じ内容が書かれた物を作ることになるのですが、著作者の許諾がないままですと、著作権の一つである「複製権」を侵害してしまうことになります。
このため、出版社は、出版にあたり著作者と出版権設定契約を結ぶことにより、「著作物を原作のまま印刷・・・方法により、文書・・・として複製する権利」を得て、合法的に出版することができるのです。
出版社は,出版権設定契約を設定するには,複製権者と契約する必要があります。著作権とは,複製権(コピーを許す権利)や譲渡権(著作物を売ることを認める権利)等の権利の集合体であり(一つ一つの権利を「支分権」といいます。),この複製権者とは,著作権の支分権の一つである複製権を有する者をいいます。
通常は,小説であれば作家が著作権者となり,そのまま複製権者であるのですが,何かしらの理由で(例えば,相続)作家が有していた著作権が他人に譲渡されていることもあります。その時は,作家と出版権設定契約を締結しても,出版権を得ることができません。
出版権設定契約を結ぶときに,作家が亡くなった,権利を譲渡したなどという噂があった場合には,誰が権利者であるか,注意が必要です。
出版権設定契約を締結するには,契約の対象物を特定する必要があります。具体的には,作者と書名で特定することになります。書名が確定していない場合は,仮の書名を契約書には記載しておいて,確定次第,訂正するという方法があります。
同じ著作物でも,単行本や文庫だけに限定するといった分割設定も可能とされています。その場合には,契約書でその旨を明記する必要があります。
出版権設定契約は,出版社の権利や義務が法定されており,内容も複雑なものになっております。前回の記事では,契約は契約書がなくても成立すると書きましたが,口頭で出版権設定契約で定めるべき事項を全て確認するのは,困難ですので,単なる利用許諾の契約ではなく,出版権を得ておきたい場合は書面を作成するべきでしょう。
出版社が,出版権を得た場合,当該著作物に関して,独占的に著作物を出版することができます。この独占的というのは,他の出版社に限らず,著作者自身も自由に出版することができなくなります。
ただし,これは,出版社の利益保護の為ですので,出版社が許可すれば著作者も出版することは可能です。
出版権者は,他の出版社が出版しようとする場合は,その出版の差止めるように求めたり,損害賠償を請求することができます。
ただ,出版権は,上で見たように,頒布目的があることがその要件ですので,個人利用の複製は出版とはいえず、出版権の独占の範囲外になるといえます。
また、出版権は,原作のまま複製する権利ですので,小説の映画化などの二次利用については,独占権の範囲外となってしまいます。このため,二次利用も考えているのであれば,別途契約条項に定める必要があります。
出版権者は,他人に出版物の複製を許可することはできません(著作権法80条3項)。
これは,出版権が,出版社と著作者との信頼関係に基づき,出版社が自ら出版することを前提としているため,著作者を保護するためです。このため,著作者が許可すれば,出版権者は,他人に出版物の複製を許可することもできるといわれています。
一人の作家による個人編集を作るため,①著作者が死亡したとき,または②出版権の設定後、最初の出版があった日から3年を経過したときは、複製権者は当該著作物を編集物に収録して複製することができます(著作権法80条3項)。
出版権者の独占的な利益も重要ですが,やはり書籍に対する公共の需要にこたえる必要があると考えられるため、著作権法は一定の限度で独占権の例外としたのです。
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