出版契約とは何だ~出版契約について①~

2014.12.8|未分類

出版_契約

 今日から,出版に関する法務について,弁護士の目線から記事を上げていきたいと思います。記事の内容としては,出版に関する法務を中心に,契約書や著作権法などの条文にも触れつつも,わかりやすい文章を目指していきますので,おつきあい下さい。

出版に関する法務ということで,スタートは出版契約から始めたいと思います。

 1 出版契約を理解する意義

 まず,始めに出版契約を理解する意義について,私見ですが述べさせていただきます。出版契約をいつも扱っているけど,実は具体的な条項の内容はいまいち分からんという人や,出版契約なんて印税の額さえ決めておけばいいんだよ,という人に,是非とも一度読んでいただきたいです。

 

 現在の出版業界においては,インターネットの普及に始まり,電子ブックの登場により,従来のビジネスモデルからの変革期にあるといえます。従来であったら,著作者との契約といっても,印税の額事項の取り決めさえできれば,契約書の内容をつめて考える必要性が正直なかったといえます。契約書は従来のひな形をコピペしたり,なんなら契約書を作成しなくても問題がほとんど発生しなかったのも事実です。

 しかし,今後は,電子ブックは権利に含まれるのか,作者の個人ブログに一部内容を掲載するのは許されるのか,といったどの範囲でどんな権利が許されるのか,個々のケースによって,様々なパターンが出てきます。

 このため,今後の実務に対応するためには,出版契約のひな形を盲目的に使用するのではなく,場面場面によって契約内容を変えていき柔軟に対応していく必要があります。

 この応用力を身につけるためにも,出版契約というものを基礎から理解して,その条項の意味を知ることが肝要となるのです。

 2 出版契約とは

2-1 出版契約を締結する意義

 まず,そもそも出版契約とはなんでしょうか。一般的に出版契約とは,出版を行うために著作権を有するものとの間で著作物を利用するための約束のことといわれています。

 例えば,ある作家が本を執筆したとき,その執筆内容には著作権が成立します。著作権の内容については,おいおい説明していきますが,その権利の一つとして,執筆内容をコピーするかどうかを自由に決めることができる権利があります(複製権と呼ばれています。)。
 出版社が,この作家が執筆したものを出版するためには,印刷過程において大量のコピーを作成するわけですが,これを無断で行うと,著作権侵害となってしまうのです。著作権侵害とならないためにも,出版社は,その作家と出版契約を結ぶ必要があるのです。

2-2 出版契約の内容

 出版契約は,具体的な内容は,契約の種類やその契約の合意内容によって違うのですが,著作者が出版社に印刷することを許すことや,その対価,すなわち印税の額を決めることは,どの契約においても共通といえるでしょう。

 出版契約は,出版社が出版する場合に出版社と著作物の作者との間で必ず締結されるものになります。

2-3 契約書について

 うちでは,作者との間で契約書を作ることは少ないよという会社もあるかも知れません。実際に,出版業界においては,出版社,特に担当者と作者との間の信頼関係が長期間によって醸成されてくるので,通常のビジネスよりも密接になる事が多く,新たな出版の際に,契約書をその都度作成しないことも少なくありません。

 しかし,契約とは,文書を作成して,お互いに署名していなくても,互いの口頭での合意によっても成立します。これを法律的にいうと,双方の意思表示が合致すれば契約は成立するということになります。

 では,なんで契約書を作成するのかというと,契約書を作成することによって,双方の契約内容が明確化しますし,あとあと契約内容でもめたときに合意内容を文書化しておけば証拠となる意味があります。

 ただ,先に述べたとおり,契約は口頭の合意でも成立しますから,新たに書籍を出版する場合には,契約書を作成していない場合であっても,出版社と著作物の作者との間で必ず出版契約は締結されていることとなるのです。

 3 出版契約の類型

出版契約といっても,内容によって,おおまかに下の3つに分かれることになります。

3-1 著作権譲渡契約

 著作権譲渡契約とは,著作権を作者(著作者)から譲り受ける契約になります。出版社が著作権を譲り受けると,以後,一部の著作権の権利を除いて,出版社が著作者として振る舞えることになるのです。
 著作者として振る舞えるということは,著作者に許可を取らずに,自由に出版することや内容を改正することができるようになるということになります。このように,著作権の譲渡を受けると,出版社は当該出版物に関して,非常に強い立場になるといえます。

 しかし,著作権譲渡契約は実務ではあまり利用されていないのが実情です。なぜなら出版社としては,出版ビジネスを行っているのであるため,出版できる権利さえあればよく,著作権利者になる必要が無いからです。
 また,著作者の方でも著作権を譲渡してしまうと,以後自分の作品なのに関与できないことになるためか,譲渡することを嫌うことも要因としてあげられます。

3-2 出版権設定契約

 出版権設定契約とは,著作者から,出版するために必要な著作権法上の権利の許諾を得ることです。
 さきほど説明した著作権譲渡契約は,著作権そのものを譲り受ける契約ですが,出版権設定契約は,著作権は著作権者のままに,著作権の権利を使用することを許可してもらう契約となります。
 出版権設定契約を結ぶことによって,出版社は,著作権を侵害することなく,出版することが可能となるのです。

 この著作権の権利の使用許可という点は,後で説明する利用許諾契約と同じなのですが,出版権設定契約には,利用許諾契約と違う点が,独占契約であり,その契約の効果を第三者にも主張できる(法律用語で「第三者効」といいます。)というところにあります。独占契約とは出版に関して必要な著作権の権利を出版社のみが持つことになり,著作者であっても出版することができなくなります。
 また,第三者に主張できるとは,他人が勝手に契約の対象著作物を出版していた場合に,差止めができることになります。

 このように,出版権設定契約とは,出版社が非常に強い権利を得ることができるようになるのですが,その契約を結ぶためには,著作権法上の要件があり,さらに出版社にも一定期間内に出版をしなければならない等の法律で定められた義務が発生します。

 この,出版権設定契約については,次回にもう少し解説していきたいと思います。とりあえずは,出版権設定契約とは,出版社に出版に関して有利な権利を持つことができるが,その反面契約の要件や出版社の義務が法律で規定されている,一長一短の性質を持つと理解しておいて下さい。

3-3 利用許諾契約

 利用許諾契約とは,出版権設定契約と同様に,著作権者から著作権の使用の許可を受ける契約です。この利用許諾契約においては,独占的な契約か,非独占的な契約かということでさらに分類することができます。

 独占的な契約にすれば,出版権設定契約と同様に,その著作物を出版社が独占的に使用することができるようになります。ただ,出版権設定契約と異なるのが,第三者効がないことです。このため,他の出版社が出版をしていたとしても,直接には出版の差止め等を主張することができません。

 このように,権利が出版権設定契約より弱くなる反面,出版権設定契約とは異なり,契約内容を自由に取り決めることが可能になります。

 4 まとめ

4-1 出版契約を理解する意義

・ 出版業界は,変革期にあるため,今後の実務に対応するためには,場面場面によって契約内容を変えていく応用力が必要である。

・ そのためにも,出版契約というものを基礎から理解することが肝要である。

4-2 出版契約一般について

・ 出版契約は,出版を行うための約束のことであり,出版社が出版する上で必ず必要な契約。

・ 出版契約は,書面を作成しなくても成立するが,契約内容の明確化や証拠化のために,書面で取り交わすことが望ましい。

4-3 出版契約の類型

① 著作権譲渡契約:著作権を作者(著作者)から譲り受ける契約。出版社にとっては,強い権利を得ることができるが,出版社にとって著作権の譲渡を受ける必要性はなく,また著作者の抵抗もあるため,実際には余り利用されていない。

② 出版権設定契約:出版権設定契とは,出版社に出版に関して有利な権利を持つことができるが,その反面契約の要件や出版社の義務が法律で規定されており,一長一短の性質を持つ。

③ 利用許諾契約 :利用許諾契約とは,著作権者から著作権の使用の許可を受ける契約のこと。独占的な契約か,非独占的な契約によってさらに分かれる。

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